映画「国葬の日」を観た

20231014 ジャック天野

映画「国葬の日」は大島新監督のドキュメンタリー映画である。彼は、立憲民主党の小川淳也議員に密着した「なぜ君は総理大臣になれないのか」「香川1区」をつくった監督だ。日本の名監督・大島渚氏の子息であり、そのせいか思考も辛辣である。だから、私は好きなのだ。
「国葬の日」は2022年9月27日、安倍晋三元首相の国葬が東京・日本武道館で執り行われた日、その日の朝から晩まで、日本の10都市(東京、山口、京都、福島、沖縄、北海道、奈良、広島、静岡、長崎)で10人プラスのカメラマンでカメラを回し、その風景と、出会った人へ国葬についての思いをインタビューし、「国葬の日」をスケッチしている。
山口・下関の安倍晋三事務所前では、弔問に訪れた支持者たちが報道陣に囲まれる。男性は「惜しいよねえ、逆恨みみたいよねえ」と声を詰まらせる。
東京・上野のパチンコ屋では、開店前から長い行列だ。
京都・平安神宮前では、イベントの後かたづけをしていた男性は、今日が国葬の日とは知らなかった。「あんまり分からないんですけど、“大統領”やったんだし、ええんちゃいますか」
東京・仲見世の菓子屋の店主は、政治的な発言については慎重な態度だ。
沖縄・辺野古では、新基地反対で座り込んでいる人たちが、「安倍晋三国葬反対!」と叫んでいる。安倍晋三は「沖縄にとって極悪非道の犯罪者」とまで言う。警察が、彼らを排除する。長いダンプの車列が工事現場へと入っていく。
北海道・札幌。木立の中でウェディング写真を撮っていた新郎の父は「国葬に反対する意味が解らない」「安倍さんは外交で功績があって、いろんな事で国に貢献したんだから」
だいたい賛成の意見の人は、安倍前首相の外交と最長の在任期間を評価する。私にとって彼の外交の評価は、ゼロ、あるいはマイナス。北方領土問題も進展がなかったし、拉致被害者の問題も何一つ進んでない。やったことと言えば、骨董級の兵器をアメリカの言い値で買ったことぐらい。アメリカの可愛いポチというところだ。
奈良・西大寺駅前。献花に訪れる人が往来する。「テレビの中の人として親しみを感じている」という女性や、「憧れを感じていた」という大学生の男性。スマホに保存している安倍前首相とのツーショットをみせてくれる。
私も、一周忌の日、西大寺の銃撃現場に行ってみた。献花に訪れる人たちはどんな顔をしているのだろうと確かめたかったからだ。それはそれはたくさんの人たちが献花に訪れていた。ちょっと違ったのは、3人の若者が、安倍さんを非難する行動をとっていたことだ。一人は警察に連行されたようだった。国民民主党の玉木代表も来ていた。
献花に並ぶ人から「玉木さん頑張って」と声がかかった。私はもちろん献花などしていない。
広島・原爆ドーム周辺では、「自民党葬ぐらいでよかったのでは」と話す女性。
静岡・清水は数日前の台風による大規模な水害被害を受けている。地元高校のサッカー部のボランティアが、後かたづけを手伝っている。
被害にあった女性は、「国葬をやる費用を災害の人に分けて欲しい」と言い、ボランティアたちに帰りにラーメンでも食べてと、1万円札を無理やり渡す。ちなみに、国葬の費用は12億4000万円とか。東京・千鳥ヶ淵。献花会場へ向かう人で長い列が続く。日比谷公園では国葬反対の集会が行われている。落合恵子さん。閣議決定だけで強
行する在り方、疑惑が解明されないまま、責任の議論もない。多くの国民を苦しめている様々な「国策」。これらの問題を見て見ぬふりをして執り行われる「国葬」。終われば、また今まで通りの社会が続いていく。「やっぱり納得がいきませんから、今日をもう一回、はじめの一歩にしたい」
福島・南相馬市。「物価も上がってウクライナの戦争はつづいている。こんな時に税金を使って国葬なんてしなくてもいいのでは。森友問題などもうやむやに終わっているし」と初老の女性。テレビのニュース番組が、国葬にかかる費用の総額が16億6000万円と報じている。ひ孫が横ですやすや眠っている。
2:00PM、安倍晋三元総理大臣の国葬が始まる。
菅元首相は、弔辞で「総理、あなたの判断はいつも正しかった」と述べた。特定秘密保護法、平和安全法制、改正組織犯罪処罰法など、難しかった法案をすべて成立させたからか。
渋谷の映画館では、ある映画のトークショウ付き上映会が開催されていた。映画の前に突然、国葬の会場前から中継でこの映画の監督足立正生監督が「本当に虚しい、いずれにしても国葬現場に立ちたかった」と語る。

映画は「REVOLUTION+1」。山上徹也をモデルにした映画だ。日本赤軍の元メンバーだけに国葬に合わせて映画をつくり上映するとは、流石だ。だだ、私も映画は観たが、急いでつくったこともあるのだろう、あまり印象に残っていない。
上映会後、「世の中が分断されていることに対して、させないやり方はないのか」と問われた足立監督は、「分断させているのではなく、分断されている現実に対して何をやるかだ。「やっぱり国葬はおかしい」と主張することで分断が進むのなら、それは引き受けざるを得ない」と。
岸田首相は閣議決定だけで「国葬」決めた。襲撃事件の3日後の選挙で、自民党が弔い合戦選挙の中、圧勝した自信からだろう。しかし、朝日新聞、読売新聞などの世論調査で、国葬反対:賛成は6:4。反対が勝ってきて「国葬反対」の声が多くなり、「国葬」を「国葬儀」などと呼び変えた。
下関の喫茶店。テレビで国葬が中継されている。「なんかウソみたいであっけないね」と女性客。「あんまりどうってことはないが、亡くなったことはかわいそう」と店主の女性。
長崎市内の国葬反対の長崎市民集会。それを見ていた男性。「自分の反対ではあるけれど、反対するなら昨日まで。いざ始まってから反対するのはみっともないだけだ」私は彼の言葉の意味が分からない。奈良のタクシー運転手。生活はコロナ禍で厳しいと言いつつも、「献花用の花が売れて、花屋さんは結構儲かっていますよ」という。私はその日、国葬をテレビで見る気がしなかったから、イオンで避暑を兼ねて読書をしていた。鈴木エイト著「自民党の統一教会汚染」を読み終えた。
日比谷公園を出発した国葬反対のデモは、九段坂交差点に差し掛かり、熱を帯びる。一方で「反日集団はさっさと帰れ」という幟をあげた集団もいる。多くの警察官、それぞれの立場のデモ隊、献花に訪れた人、それらを取材するメディア、無関係な通行人。
南相馬市の女性。ひ孫を背負いながら、原発事故で荒れ放題の土地を見て、「この子が大きくなるころ、どうなるのだろうか。良くなればいいのだけど」午後4時終了の献花は7時まで続いた。最後に、献花をした人2万5889人(内閣発表)、反対デモ参加者(主催者発表)国会前1万5000人、日比谷公園1000人、九段下600人。2022年9月の総務省発表の日本の人口1億2497万1000人。と結んで、映画は終わる。
よく今度の「国葬」は国論を分断したと言われる。私は、国論が分断されることが悪いとは思わない。逆に良いことだと思っている。国民みんながある考え方に一致しているのは、ロシアや北朝鮮や、日本の戦前のようで気持ちが悪い。
しかし、今の日本は、分断されてさえいないようにも思う。映画の中で人々は、賛成から反対へのグラデーションの中で、多くが中央に位置し、あるいはまったく無関心で生きているようにも感じる。南相馬の女性が言ったようにひ孫が大きくなった時には、どうなっているのだろうか。20年後30年後にこの映画「国葬の日」を観た人たちは、「昔の日本は本当にダメだったね」と言っているか、「今と同じだね」と言っているか。私は前者になっていてほしいと思う。

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